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最期の贈り物

 去年6月に亡くなられた小田嶋隆氏の生涯初めてで最期の小説「東京四次元紀行」を読みました。

 コラムで全開の「小田嶋ワールド」がフィクションという世界を獲得して縦横無尽に展開されていて、

 小説家としての小田嶋隆をもはや読めないことが本当に残念です。

 物語は様々な背景を持つ(ほとんどが、いわゆる「負け組」)登場人物が、東京23区のそれぞれの場所で繰り広げられる物語で、東京出身者もしくは在住者ならば意識的に、または無意識的に感じられている東京の「地元」が持つ資質にストーリーが微妙に関わっていて、晩年、「引きこもり作家」と称しながらも、愛用の自転車で東京各地を巡っていた小田嶋氏の経験がいかんなく反映されていたように思います。

 小説のあとがきで、たぶん自身の生の終わりを意識されていたのだと思われる「小説を書くのがこんなにも楽しいことを知っていれば、もっと早くから書いていればよかった。」の言葉に、小田嶋氏の無念が感じられて、また主人公の台詞に、どんな人生でも時間を生き切ったことがその人の人生だという言葉があり、小田嶋氏の生に対する思いが伝わってきました。

 この人は、本当に少年時代に抱いていた純度の高い思いを生涯なくすことができずに、それに対峙してきたのだなあと小説を読んで、論理的で理性的な考えをするかと思うと、時に脱線気味に暑苦しくなることもあった小田嶋氏の言葉の源泉を知ることができました。

 この小説を小田嶋氏の最期の贈り物として受け取りたいと思います。