トラウマ研究の第一人者コーク博士の「身体はトラウマを記憶する」を読んでいます。
まだPTSDという言葉が精神医学で認められていなかったころから、
アメリカの退役軍人病院でベトナム戦争帰還兵の精神症状から、その病の実態を目にして、
長年その研究と治療に携わってきたコーク氏は、トラウマ治療の総合的治療のための創設者でもあります。
戦争体験などの大人になってからのトラウマ体験と、
幼少時、近親相姦などの性的被害を受けた人たちは、同じようなトラウマ的後遺症の症状であるのですが、
コーク氏らが開発した、トラウマ体験によって破壊された脳機能のバランスの回復のための治療に対しての
感応度が異なりました。大人の患者は比較的治療効果があるのに、幼少時にトラウマ体験をした人には効果が認められなかったことでした。
それは、脳が発達する時期に繰り返し恐怖体験を与えられ、その環境から逃れられなかった子供たちに、
トラウマ的な体験がいかに破壊的な影響を与えてしまったのかをしめしています。
彼らに欠けていたのは「安全基地」でした。
自分の存在が無条件で保護され、慈しまれ、愛される環境をはく奪されて育つこと。
それは生きる条件の根幹に関わることであり、その体験が脳に深く刻み込まれるのは当然だと思います。
そしてトラウマに関するこの本を読んで強く感じたのは、
理解に苦しむ他者の行為の奥底には、トラウマ体験に囚われた苦しみの再現があるかも知れないということに
想像を働かせて、彼らの苦しみを理解し、寄り添うことが必要だということです。
PTSDを発症するほどの過酷なトラウマ体験でなくても、
多かれ少なかれ、誰でも強度の違いはあれ、トラウマ体験をしてきていると思われます。
自分自身、そして他者の、そのようなトラウマ体験について認識することは、
自分を、そして他者を理解し、愛するために必要だと思いました。
コメントをお書きください