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文化という名の虚偽

 カール・タロウ・グリーンフィールド著「史上最悪のウイルス」を読んでいます。

 2003年中国で発生したSARS発生の顛末を、ジャーナリスティックに描かれていて、

 感染症の発生と流行は、社会・文化的要因が大きく影響しているのだと強く感じました。

 グリーンフィールド氏はタイム・アジア版の編集長で、この本を書いた時には香港在住でした。

 中国広東省で謎の感染症が流行しているという噂は、住民の往来も盛んな香港でも聞かれるようになっていました。

 ジャーナリストとして、当時湾岸戦争勃発前夜であったために世界中が中東への関心が集中していた時に、

中国への取材の矛先を向けるのには抵抗があったようですが、香港やベトナムでも感染者が続出し、どうもその出どころが中国であることが判明して、この謎の感染症の取材のようすがドキュメントタッチで描かれ、感染症発生の事実を隠蔽しようとし、情報漏洩を厳しく取り締まっていた中国政府の方針もあって、取材は困難を呈したようです。

 読んでいて感じたのは、SARSという感染症が、広東省の野趣市場で発生したこと。そして中国南部では様々な野生動物を食する文化が元々あったことは確かですが、これほど一般庶民が食べるようになり、その種類も、絶滅危惧種からあらゆるものに及ぶようになったのは、急速な経済発展によって彼らの食習慣に大きな変化が起こったこと(宴会が多く開かれ、そこでは変わったもの、精がつくとされている野趣料理が珍重されるようになった)、それらの裏側には、中国内部の出稼ぎの低賃金、劣悪労働状況が支えている、不衛生で、非栄養的で、カネさえもうかればという欲望にかられた人間の営みが感染症流行に大きく影響を与えていたという事実です。

 そしてそれをさらに悪化させたのは、中国共産党の権力維持のための秘密主義と官僚主義であるということ。

 ウイルス感染が大都市の野趣市場で発生したことは、今回の新型コロナウイルス感染流行の発端と全く同じで、今回はSARSの反省も踏まえて中国政府は前回よりも情報を公開していますが、感染の初期の蔓延の原因となったのは、やはり情報隠蔽が行われた可能性があること、そして、今回はWHOを味方につけていることなど、

 この本の副題がパンデミックは中国から発生するというものですが、その予測が見事に的中したのは、このような社会的、文化的な背景があったからだと思われます。

 感染症の原因である野趣料理は中国の文化であると単純に言い切れない、複雑な要因がからまった現象であるとつくづく感じました。