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腸内細菌に操られて

 ラジオの講座で細菌学者藤田紘一郎氏の講演を聞いています。

 藤田氏は現在先進国にアレルギー患者が急増したのは、行き過ぎた衛生観念によって、本来人間と共存していた寄生虫や細菌などが激変したためであるとし、自ら数種類の寄生虫を数年に渡って「飼って」いて、その寄生虫を名付けてさえいました。

 その間藤田氏の体調はすこぶる良好で、2年もすれば自然と寄生虫は死滅して体外に排出されるそうです。

 そして不思議なことに、寄生虫の命運がつきるころ、なんとなくモノ悲しいような不思議な気持ちに包まれたそうです。

 それは氏の思い過ごしや寄生虫に対する思い入れの強さを差し引いても、寄生虫や腸内細菌が作り出す物質が脳の神経伝達物質で、その不足がうつ病の原因の一つとも考えられているセロトニンの原料となるものを作り、それが血液で運ばれて脳血液関門を通過し、脳内のセロトニン濃度を調整しているためでもあるかもしれません。

 藤田氏は様々な腸内細菌の人体における作用を述べていましたが、その中で腸内細菌が食物繊維からつくる「短鎖脂肪酸」の働きは人体をバランスのとれた健康な状態に保つのに重要な役割を挙げていました。

 人体に存在する腸内細菌の数は人間の細胞の数を上回り、私たちは体内に住む腸内細菌と、身体の機能だけでなく、精神作用にも深く関わりあいながら生きているのだということを改めて感じます。

 それはまるで私たちの身体や心の主体は、私ではなく、むしろ腸内細菌であるかのようです。

 腸内細菌に操られている自覚なしに生きている。

 それが私たち人間の生の実態であると思いました。