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人間的な脳による動物的な脳の「調教」

 平井慎二著「条件反射制御法」は、「わかっちゃいるけど、やめられない」脳のしくみを解明して、それを手名付けるための手法「条件反射法」についての解説本です。

 私は平井氏の名を、内澤旬子著「ストーカーとの700日戦争」の中で知ったのですが、内澤氏が自身が受けたストーカーに対して、ストーカーは対象に病的な執着をする心が制御できなくなる精神の病であって、それは専門の医療機関で治療しなければならない。犯人がその状態から完治しないかぎり、被害者は一生付きまとわれる恐怖から逃れることができないとして、ストーカーの治療を望み、その方法として平井氏の条件反射制御法が紹介されていました。

 実際に平井氏は千葉の精神治療施設で、アルコール依存、薬物依存、盗撮、強姦、ギャンブル依存などの犯罪にかかわった人の矯正から、依存症に苦しむ人まで、この条件反射制御法によって治療を試み、かなりの確率で依存症からの完治をさせています。

 条件反射制御法は、パブロフの条件反射が誤解して理解されていることを正し(それは動物実験におけるもので)、人間にだけある理性の力で本能を「調教」する方法です。

 本能の脳は、生存に関わる防御、摂食、生殖に関わる欲求から生じ、それが進化上優位になるような行動を反射として引き起こすようにヒトを含む生物全部に備わっている「第一信号系」としてのシステムです。

 そのシステムが暴走し、「望まない神経運動」を引き起こしている状態が依存症やPTSDなどの取トラウマ現象だと平井氏は考えます。

 それを矯正するには、「第二の信号系」=理性が働くように、「第一の信号系」の無意識反射として出来上がっている流れを、強く意識させ、ストップさせるように自らに言い聞かせる行為を一日に何度も反復させ、依存行為の疑似行為を繰り返し、それに伴う快感を覚えないことを繰り返すことで、理性が納得するように仕向けることで、依存行為がもたらす強烈な生存欲求から来ている快感を消滅させていこうというものです。

 それは「人間的な脳による動物的な脳の『調教』」であると平井氏が言うように、その治療法は、まさに動物調教と同じです。

 私たちの脳には動物的な脳が潜んでいることを深く実感しました。