大野玄著「老年という海をいく」の中で、認知症の方の「意味の世界」に寄り添うために、介護する側は「演技」が必要だとありました。
大野氏は長年訪問治療で認知症の方と多く接してきて、認知症の人の心の底には「不安」があり、それが彼らの様々な症状を引き起こしていることを理解しました。
一瞬前の記憶が薄れ、自分を取り巻く世界を認識することが困難になるとは、不安と恐怖に満ちた状態に陥ることです。そのような状況に対してヒトは「驚くほどの適応性」を発揮し、その表れが認知症特有の症状であると大野氏はいいます。
自分でできることが少なくなり、周囲の助けを借りなければならなくなることは、自立した大人としてのアイデンティティクライシスに陥ります。その危機に対処するために認知症の方のとる手段が「現状否認」、「嘘」、「ものとられ妄想」などです。
それらに直接遭遇する側からすれば、心理的に抵抗感が強く、拒否感や嫌悪感や怒りなどが沸き起こりますが、それは彼らが自分の実存すべてをかけて、それを必死で守ろうとする健気な攻防戦であると理解すれば、そしてその思いは健常者である我々すべても心の底に押し隠して(自尊心が保たれている状態では表に出す必要がない)いるだけなのだと自覚することによって、彼らの「健気」な言動に共感することができると大井氏は説きます。
その際にうまく共感するコツは、「演技」だといいます。
認知症の人が紡ぎだす独自の「意味の世界」に共に入り込み、その中の役者として演技することによって、彼らの世界を共に生き彼らの思いに寄り添うことで、認知症の人の不安を払拭することができるようになると。
私も初期認知症の母に対して、母の「意味の世界」を想像し、できるだけそれに寄り添うように、母の立場になって物事を捉えるようになると、不思議と優しい気持ちになり、イライラしなくなり、またそれが母に伝わるのか、今までの母娘関係の中で最も良好な関係になってきているように感じます。
認知症の人の「意味の世界」の中で演技することを楽しむ余裕を持つことが、認知症介護のコツなのだと実感しています。
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