内田樹氏が緊急時の対応について、「複眼的ものの見方」という言葉を挙げていました。
緊急時に適切な行動を取れなくする最大の要因は「正常性バイアス」に囚われるからで、緊急時にまず必要なことは、その正常性バイアスの解除だといいます。
正常性バイアスの解除とはいたずらに怖がることではなく、自分が見ているものだけから今何が起きているかを判断しない。自分が現認したものの客観性・一般性を過大評価せず、複数の視点から寄せられる情報を総合して、今起きていることを立体視することである。
ヒトが正常性バイアスに囚われるのは、正常な日常においてそれをしたときに精神的に過大な負荷がかかることが想定されるからです。
しかし緊急時において最優先されるのは命であって、命と「めんどうくささ」は、緊急時において秤にかけるまででもありません。
けれども緊急時であるのに、正常性バイアスがかかってしまうのは、めんどうくささという意識的なことに加えて、「自分の周りでは正常である」という、現実に囚われて、今ここ、にあるものしか判断材料にしないこと。
つまり単眼的な物の見方をするクセがあるためだと内田氏はいいます。
自分という主観的な視点をいったん「エポケー(フッサール哲学の用語、ひとまずうっちゃっての意味)」して、あえて自分を客観的な視点に置き、世界を捉えてみる。
このような世界に臨む姿勢は「複眼的」です。
複眼的視点を常日頃から取るのは、主観的なシンプルな感覚から離れることで、意識を無理やり迂回させることによる副作用として、物事を「ビビット」に味わえない傾向を帯びることにもなります。
つまりは「クール」になってしまうのですね。
けれども、緊急時においては、その「クール」な視点が必要だということで、それを身につけるには、常日頃から、物事を複眼的に捉えるクセ、つまり、「クールになる」ことを自分自身に課す習慣を身につけることが大切だと思います。
情動が基盤にある主観性は強い確信を抱かせてくれますが、客観性は理性で創作したものだけに、それに欠けてしまい、不安になりがちです。
「本当にこれでいいのか?」と。
しかし、複眼的視点で物事を捉えるクセをつけ、その都度フィードバックして、その精度を上げておくようにすることが、緊急時に命を守る有効な手段になるのだと、内田氏の指摘から考えました。
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