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現在を失うことの病理

 精神科医計見一雄氏が統合失調症患者の病理の特徴として「堅さ」を上げていました。

 彼らの言動には特有の「堅さ」がある。それは彼らの時間の捉え方が、未来に主点を置き、現在の時間は常にそのための準備の時間とし、現在→未来へ時間の流れをあまりにも硬直的に捉え、現在が未来に埋没していると。

 それゆえ、予想していたような未来出なかった場合、パニックになり精神に多大な負担を強いて、そのストレスが発病のきっかけとなると。

 それは統合失調症患者だけでなく、現在日本社会を生きる私たちもその傾向が強まってきているように感じます。現在に侵入してきた未来によってがんじがらめにされている。未来への不安のために現在を満喫できない症候群とでもいうべきものなってきています。

 それは昨今の異常気象や巨大地震の起こる確率の高さなど、自然現象の不安定さや、少子高齢化社会が進む日本社会の見通しなど、日々流れてくる情報は、「未来は現在よりも確実に悪くなる」、「悲惨な未来にならないように現在から備えなければならない」、「現在を我慢して未来のために蓄えよ」といったメッセージばかり受け取っているようなきがします。

 先の利益のために熟考して計画を立ててばかりいると、今が犠牲になる。「現在を失うほどの悲惨はない。」といったのは、吉田健一であるが、まさに現在を喪失した人々の悲惨さを、私は精神病理医としてたくさん診た。

 「今、ここ」にあるマインドフルネスの精神が安定や充実感を私たちに与えるのは、現在を未来の呪縛から解放するからなのでしょう。

 私たちの不安が生まれるは、今、現在にない未来の時間を想像することができるほど脳が発達したためであり、そのことは同時により良い未来を実現したいという思いも生み出し、文明の発展の機動力ともなってよい面もありますが、そのようにして獲得した現在を手放したくない、現状維持したいという思いが未来を呪縛しているように感じます。

 「なるようになれ。」「ケセラセラ」と、常日頃から唱え、心を未来から解放することも必要だと思います。