社会経済学者松原隆一郎氏が蔵書1万冊を収蔵する書庫を、建築家堀部安嗣氏の設計で建築するまでの過程を綴った記録本を読みました。
阿佐ヶ谷の早稲田通りにある8坪の狭小地にコンクリートRC施工で内部を円柱にくりぬいて半地下~3階まで壁面本棚、壁に取り付けられた螺旋階段が地下から天井まで伸びる不思議な空間となっています。
この書庫を建てると決意するまでの松原氏の一族の歴史は、家というものがそれを建てる人の思いを体現したものになりうるのだということを強く感じました。
この書庫を建てた目的は二つ。学者として増え続ける蔵書の収蔵管理と、祖父の高さ170cmにも及ぶ巨大な仏壇を収蔵することでした。それは神戸の実家を処分し、相続として遺産とともに長男で松原家の跡取りであった氏が受け継いだものでした。
一大で事業を興し成功しそして没落した祖父の軌跡が、その後の親族内のもめごと等で失われてしまったことに対する強い哀惜の情が、堀部氏との不思議な縁もからんで、このような不思議な空間を創造するに至ったのだと、まるで物語を読むように建設のいきさつを感じました。
しかし施主の思いと、それを実現する建築家、そしてそれを現実に組み立てる施工業者の仕事は全く位相が異なるものだと建築の過程を写真付きで追って解説しているのを読んでつくづく感じました。
けれども、一つの建物にはこれだけ多くの人の熱い想いを込めることができるのだ。そしてそれを現実の空間として生み出すことができるのだと感嘆しました。
コメントをお書きください