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「医学」と「医療」のあいだ

 ブログで話題の医師Drヤンデル著病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと」の中で

 「医学」が「医療」になるためには、「医術」とでもいうべき人間性が求められる要素を必要とする。

という言葉がありました。

 病理学という患者を直接臨床で診ることのない、つまり純粋「医学」の分野で日々患者の検体を観察、診断している専門医である病理医であり、また、「医療」の繰り広げられる病院という「患者と医者がドラマを演じるステージ」で勤務する医師として、いわばカメレオンのような立場にある氏が、

医学という膨大な過去のデータ蓄積=「医学」と、今ここの患者さんに向き合う=「医療」との間にある、ふか~い溝を日々痛感することから生まれた言葉のように思います。

 だから、氏自身が病気になって病院を選ぶ際に何を基準にするかという問いに対して、

医師としての知識、内輪の実情やコネクションを鑑みて、その上であえて「人=医者」を第一の選択基準に置くといいます。

 「人」とは「患者をよく観察し、患者の話をよく聴き、適切な診断ができる医師」のことです。

 患者が求めているのは、辛い症状を治してくれる医療であって、そのためには生身の刻一刻と変化する症状をきちんとらえて、「安心」を与えてくれる医者です。

 大学病院や大病院などの方が、設備が整っていて、優秀なドクターがいるから、病気を正確に診断してくれると考えて、現実、それらに患者が殺到して、診断待ちの長さや、医療者の過剰労働が問題になっています。

 しかし、医師である自身が患者になったときには、ヤンデル氏は、まず「人」として優れている医師のいる診療所に診てもらうといいます。

 なぜならば、今ほとんどの病は、エビデンスがしっかりした「標準治療」が確立されていて、よっぽどのヤブかヘボでない限り、誤診やご治療の生じる確率は低いからだです。

 そして、そこで、じっくりと症状を観察診断してくれる医師と話しあって、共に、病気に向き合っていくというチームワークを形成し、病に向き合うことが最も有効な治療の方法であると氏は考えます。

 そこには「医学」と「医療」の橋渡しをする「医術」というものが、現代の医療現場においても入り込める余地が存在するからです。

 患者が主役であり観客でもあり、病院は、病気というテーマに対して患者と医者等々が繰り広げる舞台であり、「医術」は、ドラマとして成立する「演出」であると、ヤンデル氏は感じているのではないからだと思います。

 「医学」と「医療」のあいだに求められるのは「医術」なのですね。