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恐るべし、自尊心の魔力

 デーィン・バーネット著「残念な脳」の中で、「自尊心と達成感はヒトの正常な活動のためには必要不可欠」という言葉がありました。

 脳神経学者である氏は、進化のプロセスでたまたまこのような機能を獲得するようになってしまった、脳の不具合を数々挙げていて、脳は私たちが思っているほど「高性能コンピュータ」でもないし、「唯脳論」の世界を構築するにも多々綻びが露見してしまっています。

 特に、脳はその持ち主の思惑にかなり影響を受けています。そしてややこしいことに、その思惑はその脳自身によって作り出されているということです。

 その思惑の最大のものが「自尊心」です。

 なんと、ヒトはこの「自尊心」という何とも面倒な情動に、記憶まで改ざんし、事実をゆがめて認識しているらいいのです。

 バーネット氏は「自尊心が記憶バイアスをつくる」といいいます。

 それは無意識に行われていることで、私たちは自分の正しいと思っている記憶が、実は自尊心によって密かに改ざんされていて、それを真実と思い込んでいるようなのです。

 自尊心が作る記憶バイアスには

  • 選択肢支持バイアス・・・自分が選択したものを(客観的にはもっといいものがあっても)後づけで正当化する
  • 「自己生成効果」・・・(本当はそうでないのに、良い結果に対して)自分がやったと思い込む
  • 「後知恵効果」・・・「そうだと思っていた(実はリアルタイムではそうではなかった)」
  • 「自人種バイアス」・・・他人種よりも自人種について興味関心がある
  • 「感情弱化バイアス」・・・不快なものの記憶のほうから先に消えていく

 自尊心は、せこく、いじらしいまでに、記憶を改竄しているようです。

 私たちの自分に対する記憶は、自尊心改竄の分を考慮して、かなり差し引いて捉えることが必要です。

 なぜこのように自尊心は記憶にまで「手を付けて」しまうのか。

 バーネット氏はその理由はわからないが、改竄することでマイナスの作用を生むかもしれない危険を冒してまで

自尊心を守ろうとすることに、進化的意義を感じて、

ヒトが生きるためには、自尊心は必要不可欠だからではないか

といいます。

 恐るべし、自尊心。ヒトは実に「骨がらみ」なんだなあと感じます。