建築家堀部安嗣氏の「住まいの基本を考える」を読んで、改めて深く「住宅」というものを考えさせられました。
「住宅は帰るところ」だと定義しています。
会社、学校、デパート、美術館等々の場所へは、私たちは「行き」ますが、住宅(住まい)には「帰り」ます。
そして行くことは、私たちの都合で行ったり行かなかったりの選択ができますが、帰ることはできません。戻るところがないと生きていけないからです。
そして「帰る」ところは、どのような状態であってもー弱っていたり、悲しみに浸っていたりー受け入れてくれる場所でなければならない。つまりそこに帰ることによって安心と安全を得、懐深く私たちを包み込むような空間でなければならないと。
現在の住居に住んで16年。賃貸ですがテラスハウスの一軒家で、治療院も兼ねているとは言え、一人暮らしで収入も少ない私には分不相応と常に感じていますが、心底この家に住んでよかったと毎日感じています。
自宅で仕事をしているため、大部分の時間を家で過ごすことが多いため、家と自分とが不可分に感じられるほど、自分の呼吸と家がシンクロしているような気になることがあります。
そして家にいると心の底からくつろいで、外出すると、落ち着かなく、「早く家に帰りたい」とさえ感じてしまう、重症の「家依存症」です。
だから、堀部氏の言う「住宅は帰るところ」という言葉には私自身の実感として深く共感します。
そして氏が設計する時に心掛けている「自然をいなす=自然との共存」の考えも、住宅が自然の過酷さから身を守るものであると同時に、周囲の環境をうまく取り入れ、それと対抗するのではなく、それと溶け込むことができるよう昔からの住まいの知恵を取り込んだ住居という考えにも共感します。
住宅は「弱い者のため」にもあるという氏の考え。人間はいつも若く元気でいる時期ばかりではありません。
老いて年とってきたり、病を得たりして、それでも生きていくための力を住宅が与えることができるような。
そのためにその土地にあった建築素材や住まい方を積極的に取り入れる。
大好きなこの家で心身ともに快適な毎日を過ごすようになって、住まいの力を強く実感するようになりました。
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