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美談にしたてる拒否

 高齢者医療を専門にされている阪大教授でもある医師佐藤眞一著「不可解な行動には理由(ワケ)がある」の中で、若年性アルツハイマー病の介護をされている妻が、認知症について考える会合で、アルツハイマー病の夫が講演をし、「妻に感謝している」旨のことを発言し、会場にいる皆から称賛の拍手や言葉が投げかけれられた際、妻は怒りに近いような違和感を覚えたという場面がありました。

 妻の違和感を佐藤氏が代弁して以下のように解説していました。

介護は誤解を招くことを承知であえて言うなら、悲惨なこと、非常なことだと思っているからこそ、周囲の人は、その現実から目を背けるために、介護する人を褒めて美談に仕立て上げ、自分がいい気持ちになっている

 そしてアルツハイマー病を患っている夫も、日々認知機能が衰えて、妻に支援されることが増えて、そんな自分に不甲斐なさ、怒りを感じながらも、「感謝」という言葉でその感情を押し殺してしまう悲しさ。

 認知症に限らず、介護する人、介護される人の間に生じる避けられない感情の葛藤を、その現実の本当のところを見ようとせず、自分たちにとって受け入れやすい形にして遠ざけて、当事者としての視点から離れた、他人の立場で無責任に褒め上げることの暴力性を鑑みました。

 では、介護する妻が最も求めていたのは何だったのだろう?

 介護という身体的精神的に過重な負担を強いる行為をありのままにとらえ、「正しい介護」という社会が強要する価値観から自由になった介護する人のありのままをそのまま受け止める周囲の人たちの共感だったのではないかと思いました。