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免疫力はアップしない?

 「これで分かるがん免疫の真実」は、がん免疫療法を研究し臨床でも応用している森崎隆氏のがん免疫療法解説本です。

 体に侵入する異物を排除する免疫と、もともとは体の細胞の一部であったものが変異したがんが、どうして治療として結びつくのか。

 ノーベル賞を受賞した本庶佑氏の免疫チャックポイント療法とはどのようなもので、それががんの治療とどのように結びついているのか。

 最新の免疫療法について疑問に思っていたことについて、とても分かりやすく簡潔に解説してあります。

 森崎氏もいうように、免疫という言葉は生物学上の言葉を離れて一般的に流布する言葉となっています。

 それは本来の生物学での免疫の意味を離れて、からだの漠然とした活気の度合いを表す言葉=免疫力として疲れていて、

 実際にその効果が人間においてのデータでなかったり、免疫の効果が実証されていない、多くのサプリや栄養食品の宣伝文句なったりして、正確な免疫学の情報が伝わっていないのが現状です。

 そもそも免疫力は「アップ」も「ダウン」もするのではなく、

 「免疫のどの機能を亢進させるか」、「免疫のどの機能を制御するか」が、免疫を用いた医療の目的です。

 免疫は長い進化の過程を経て人体がそれを取り巻く環境との格闘によって獲得してきた必要不可欠な機能で、

それがなければ一日も生きていけないものですが、一方それが働きすぎると人体に被害をもたらす、

「取り扱い要注意」のシステムでもあります。

 今までの免疫の定義は、「自己か非自己か」で体内に侵入しようとしている、もしくは侵入した異物を排除するシステムだとされてきましたが、それだと、がんなど元は自分自身の細胞であったもの=自己が変異したものは、果たして自己であるのか、非自己であるのか、自己としたら、それは免疫システムで排除可能なのかが理論になります。

 がん「Danger理論」とは、自己・非自己を問題とせず、免疫とは「自分にとって危険か危険でないかを判断し、自分にとって危険なものを排除する反応」とするもので、それならばがんは免疫システムで取り扱うことが可能になります。

 がん細胞は元自己であるのに、それが変異して自己にとって危険なものになったもの。

 がん免疫療法は、人体がもともと潜在的にもっている自分にとって危険なものを排除する仕組みを利用し強化する=アクセル強化→免疫療法と、免疫が働き過ぎることを制御する仕組み=ブレーキを解除する=免疫チェックポイント療法の大きく二つのやり方で、がん細胞を免疫システムを利用して攻撃し死滅させようとするものです。

 実際の臨床では複雑な要素がからみあって、効果は2割程度のようですが、ガン末期で全身に転移した患者さんでも完解する例もあるほど、行き詰まっていた進行がんの治療にとって画期的な治療法のようです。

 ただ、どのような人が効くのか。どのような人が効かないのか。その理由を探求し、あらかじめ効果のある人だけを選別するオーダーメイド治療が求められています。

 複雑な免疫のしくみを解明することが、実際にがん治療という応用され効果を上げているという実態に医学の進歩を実感するとともに、免疫を知るにつれて、その奥深さに感心し、それは生きている現象そのものではないかと思うようになってきました。