· 

未知の病

 ニコラス・クリスタキス著「疾病と人類知」を読んでいます。

 クリスタキス氏は、医師でありながらも、ヒトとヒトのつながりのネットワークの研究者としても著名で、今回のコロナウイルスパンデミックでは、アメリカのコロナ対策の先鋒として、疾病が中国で発生した直後から病の症候や流行の行動などを調査して、この疾病の病理学的意味、社会、特にヒトのコミュニケーションに与える影響などを、流行拡大下のリアルタイムで鋭く洞察しています。

 感染症が他の病と異なるのは、病に罹った患者だけでなく、患者が置かれた社会環境に深く関係しているということです。

 それは患者当人の症状に対するだけでなく、患者の社会行動的なこと、患者周囲の人間関係、患者の置かれている社会状況など複雑な要因が疾病に関係し、「ひとりの病」に収まらないことです。

 それに加えて、コロナ感染症は、人類にとって未知のウイルスによる病であるということ。それがこの感染症の治療や対策の方針を立てるのを困難にします。

 現場の医師として、また公衆衛生の専門家として、コロナウイルス感染の「正体」を解明している過程は、科学者として、そして感染症拡大に影響に対しては社会学者の視点から、クリスタキス氏が、この道の病を解明していく様子がいかに困難だったのかが伺えます。

 コロナ感染が拡大してはや2年、私たちはすっかりコロナに慣れ切って、もううんざりしてしまっているほどですが、クリスタキス氏は感染拡大の初期から、このコロナ感染症が、今後の人類の社会に与える影響を長期的な視点でとらえているのに驚きました。

 そしてその予想は現在のところ当たっているのも驚きです。

 コロナが21世紀に発生した未知の病であり、かつ、人類の歴史において何度も体験してきた、感染症でもあるということを改めて思い起こしました。