佐藤達夫氏の「食べモノの道理」は、あふれる食についての情報に対してどのような姿勢を取るかのヒントを与えてくれます。
佐藤氏は「栄養と料理(香川綾氏の80キロカロリー食品表の本は、栄養学オタクであった高校時代の愛読書でした)」の編集を20年以上されていた経験があります。
比較的新しい学問である栄養学の現在社会における実態ーそれが実際にヒトのからだでどのように作用しているか、そしてその情報が消費社会でどのように消費されているかーを知り尽くしてきただけに、溢れかえる食の情報に溺れてしまいそうな私たちが、食情報にどのようなスタンスを取るのが、もっとも健康に良いのかを教えてくれます。
氏が様々なデータを上げて、ちまたに流布している「過激派」食情報の正誤を検証しています。
マスコミなどで取り上げられる食の情報は、すべて、健康に「良いか、悪いか」を判断基準として、ある実験結果や、人気タレントなどの個人的な体験談をもとに、偏ったデータの読み取りで、読者や視聴者の興味や感情に訴えるものとなっています。
食は、植物のように自ら栄養を作り出せない動物が生きていくために生み出した根源的なシステムで、それが体にもたらす作用は、長い年月をかけて我々の祖先がそれこそ身をもって試行錯誤してきた知識と合わさって、食という文化を形成することによって、私たちの生活の土台となっています。
佐藤氏がこの本で何度も主張してるのは、食べモノの質の是非ではなく、量の如何です。
食べモノに(健康に)いいも悪いもない、あるのは、それを食する人にとって、「適度」であるかということです。
そして、食べることは生きていくための手段であって、健康になる目的ではないということです。
このような手段と目的が逆転している食の現象が、「日本食はヘルシーだ」という誤った思い込みが流布している実態であると氏は捉えます。
世界的なブームである「和食」の実態は、スシやサシミなどの伝統的な和食の一部の料理だけを取り上げ、それだけを摂取するものですが、それでは本来の栄養バランスのとれた和食のありかたではない。
また、日本食が健康にいいとされる根拠は、日本人の平均寿命が世界のトップクラスで、先進国に多い極端な肥満の人が少ないという実態からきていると思われます。
しかし、日本人を健康で長寿にした最大の要因は、戦後日本社会が豊かになり、肉や乳製品などを多く取り入れる欧米型の食生活を伝統的な日本食(それは必ずしも健康にいい食ではなかった)の中に取り入れてきたことによる、栄養の向上によるものだと、佐藤氏はデータを根拠に主張しています。
私たちが溢れる食情報にどう対処し、健康で幸せな生活を送るためには、個人の体験や経験に学ぶのではなく、多くのデータに学び、それを正しく読み取るリテラシーをみにつけることが大切だとつくづく思いました。
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