ニコラス・ローズ著大著「生そのものの政治学」を読んで、21世紀の身体観の変容にあらためて気づかされましした。
この本で様々な分野での変化、とくにテクノロジーの変化によって、私たちは自分自身の身体が目に見えて触れる「モル身体」から、CT、MRI,SPECTなど電子機器による測定によって実際に目に見えるレベルではなく「分子的身体」に身体観が変容してきているということです。
また薬の作用、特に脳の機能に働きかける精神薬によって、気分や意識の変容も可能になってきています。
ローズ氏は、そのような変容は、私たちの身体は、自分自身でコントロールできうるという段階に入ってきている。いかにそれをコントロールしていくのか。私たちの身体はなにをめざしているのかを問います。
特に、考えさせられたのは、精神薬の作用、特にADSDの子供に処方されるリタリンなどの精神薬に対するローズ氏の価値判断でした。
先進国においてADSDの子供に多量にリタリンなどの薬が処方されている現象にたいして、批判的な意見もあるなか、ローズ氏は、それらの薬を適切に使用することで、
「本来その身体(脳)の自己に立ち返ることができる」と肯定的に捉えていることです。
精神薬は脳に作用するため、薬の作用によって、脳の機能不全によって失われていた本来的な自己を取り戻し、自己にコントロール力を取り戻し、その人らしい人生を送ることに役立つというものでした。
この本を読んで、好むと好まざるとに関わらず、21世紀の私たちの身体は、自分で自分の身体を注意深くモニターし続け、そして微細な調節作用によってコントールし続けながら生きていく対象となっていると感じました。
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