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治療は「問わず語り」が理想

 呼吸器専門医亀井三博著「私は咳をこう見てきた」は、呼吸器の専門医に対して臨床上の留意点が書かれた専門書なのですが、実際の亀井氏の臨床の様子が、ナラティブ(物語り)になっているので、まるで探偵ものを読むように、各々の症例を興味深く読みました。

 それは亀井氏の医師としての姿勢が、「診療は『問わず語り』が理想」とするものだからだと思います。

「問わず語り」が私の理想である。問いかけなくても人々が病の物語を余すことなく語ってくれる。

出会いの時は、そのための二度とない時間。一期一会である。大切にしたいと思う。

病の物語を編むという共同作業を、私たちは共に歩んでいく。

 亀井氏がこのように患者の語りに耳を傾けるのは、咳という一つの症状でも、患者という身体で繰り広げられている病という物語についての貴重な情報となるからです。

その作業に最も適しているのは教科書を読むことではない。一人ひとりの患者さんが話してくれる豊かな病の物語。これに勝る生き生きとした情報はない。

そのためにはまず、自分が患者さんたちから話してものえる医師でなければならない。

 亀井氏は医療は医術というアートであるといいます。それはマニュアルやエビデンスベースの医療の効率性だけでは測れない、医者と患者との病という課題に取り組む共同的な創作活動であるからなのでしょう。