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ローマ人物語 完読

 緊急事態宣言で毎日利用していた図書館が5月31日まで休館となり、手元に借りていた10冊の本を読み終えた後、自宅の本でも再読しようかなあと考えていたところ、大家さんから(私の活字中毒をご存じなので)「ローマ人物語貸しますよ」との有難いご提案。さっそく借りることにしたのが先月の20日過ぎ。

 それから文庫本が出ている31巻まで、毎日1~2冊ずつ読み進め、最後の単行本4冊を含めて、昨日すべて完読しました。

 思えば40日間の「ローマ漬け」の日々。

 世の中はコロナ禍で、感染者数の増減に一喜一憂する中、仕事も休業状態で、テレビがなく、ネットも必要な情報以外ほとんど見ない、独り者の私は、家事、ジョギング、ウオーキング等のルーティンを済ませた後の、午後の時間すべてを使って寝るまで、「ローマ人物語」を読むことに没頭しました。

 最終巻で「おわりに」の中で塩野氏が言っているように、ローマという2000年前に登場した人類史上稀有の壮大な帝国を、人間の一生に見立てて、誕生→成長→壮年期→老年期→死と、イタリア半島の一都市国家から生まれたローマがどのように隆興していったかを、当時の政治情勢だけでなく、ローマ帝国の誇った法、建築技術、芸術等に至るまで、余すことなく解説していて、読むたびに

「2000年前(日本はまだ縄文時代)に、これほど高度な文明が存在していたとは。人類の中身は2000年、全く進歩していない。」

 ということを強く確信しました。

 それほど、ローマ文明はすばらしい。

 塩野氏のローマ愛、特にカエサル・シーザーへの愛が全編に満ちていています。

 確かにシーザーは、他の文明がどれも、隆興した後に急速に衰退へと向かっているのに対して、ローマは高度経済成長後に安定した繁栄の期間をかなりの間享受することができたのは彼の業績の賜物だと思います。

  自身が反対勢力による暗殺という浮世の目にあってしまいましたが、巨大になった帝国を当時の政情でもっとも最良の方法で収めるのに、元老院中心の共和制ではなく、一人の指導者による帝政が最もふさわしいとして、その礎を築いたからでした。

 読みながら、ローマ帝国が歩んだ道は、その後多くの覇権を取った帝国や国家に繰り返された現象ですが、ローマはそのオリジンであり、その強大さと持続の長さにより、人類が達成した人民支配の「帝国」という様式を余すことなく生み出した現象だったと思います。

 そして誰もが「なぜ、あのような巨大な帝国ローマは滅んだのか」と思う疑問に対して、塩野氏は様々な要因が複雑に絡み合い、盛者必衰の理を読者に納得してくれました。

 末期のローマは、多臓器不全で息も絶え絶えの老人の様相で、読んでいて塩野氏のローマ愛が移ってしまったのか、重症患者の傍で何もできないで苦しむ患者を見守る親族のような気持ちになってしまいました。

 ともあれ、「ローマ人物語」を読み終えた後。人類はこんなに素晴らしい文明を自らの力で築く能力が2000年前にすでにあったのだという事実に、人類に対する可能性を感じました。