NHKスペシャル「病の期限シリーズ うつ病と心臓病」の本版。病の進化論的考察です。
現在の医療は、今生じている症状を治すものですが、それは対処療法であって、病が「なぜそうなのか」という病の根本の理由を解き明かさなければ病の根治はできません。
進化論的に病を捉える「進化医学」視点は、人類が自然淘汰の中で獲得してきた遺伝子が、それを獲得した(変異した)時代の環境と現在のそれとのミスマッチが、病を引き起こす原因ではないかというものです。
進化医学的考えは、直接病を治すものではないですが、予防や未病を治す方針となります。
現在人に心臓病が多く生じるわけ。
脂肪の多い食事や運動不足、ストレス社会など、先進国の現代的な社会環境が心臓病の増大を引き起こしていると考えられています。
実際その要因は大きいですが、なんと、エジプトのミイラにも心臓病疾患がいるし、狩猟採集生活を送る人々の間にも心臓病の人がいるそうで、実は心臓病はヒトが進化の過程で、直立歩行や脳の発達のためにトレードオフした結果として、「副作用」的に体の構造に必然的に生じる欠陥のようです。
直立歩行は人類を両手を使えるようにし、狩猟採集を可能にし、火を使い、肉を調理することを可能にしました。
それは脳の発達を促し、人類の文明の発展を促す要因となりました。
しかしそのため、体は最も大切な脳が常に酸欠にならないように、優先的に血液を送るため、重力に逆らって血液をくみ上げなければならず、他の動物に比べて心臓に大きな負担を強いるようになりました。
また面白いことに、Gcと呼ばれる細胞表面にある糖鎖タンパクが、ヒトだけが進化の過程で消失し、それを異物として抗体が作られ、それにより免疫反応が生じ、炎症が生じ、細胞が破壊され、そこにコレステロールが入り込み動脈硬化を引き起こしているようです。
Gcはマラリアのターゲットとされるため、マラリアに罹りにくくなるという有利性があるため、人類はGcを失うことで生き延びてきたようです。
Gcは特に脳に侵入する異物に反応するようで、人類は脳を護るためにGcを失って、そのために動脈硬化を引き起こしやすい体になってしまったとも考えられます。
直立歩行は体にものすごい負担をかけるようで、実はヒトは27分しか直立になれないそうです。
寝ている状態から直立に起こして吊り下げる実験をしたところ、27分すると失神してしまうそうです。それ以上になると血圧が維持できなくなるそうで、無重量状態で数週間過ごしその環境に慣れた宇宙飛行士は、地球に帰還すると失神してしまう現象が起きるそうです。
私たちヒトは巨大な脳を手にいれて高度な文明を築いてきたのですが、そのために体に大きな負担を強いているのだなあと痛感します。脳の働きをあまりにも特権化してしまった結果、それが生み出す文明は、便利になってからだへの負担を軽減している面もあるようですが、実は、体のシステムに対して過剰な負荷をかけていて、それが破綻したときに病が引き起こされるのではないかと感じました。
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