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嫉妬の使い道

 為末大氏がブログで自身の嫉妬心への対処を綴っていたのが、とてもシステマチックで参考になりました。

 嫉妬心は、その作用が生き物としてそれを持つことが生殖上優位になるため、受け継がれている進化の産物である本能的情動です。本能的なものが現在のヒトの生活様式では往々にしてミスマッチを生じるように、嫉妬心もそれが高じるとかなり厄介な事態を引き起こしたり、当人を苦しめたりします。

 アスリートとして常にトップを目指してきた為末氏は、他の人よりも、他よりも明確で限られたポジションを狙うために熾烈な競争に常にさらされてきて、その分強烈な嫉妬心を自身も持ち、また受けても来たようです。

 嫉妬心のやっかいなところは、本能的な情動であるために、それは生々しい負の感情でありながら、それをコントロールすることが難しいということです。

 為末氏のさすが!と感じられるのは、そのような嫉妬心の「使い道」を合理的に分析し、自分が前向きな将来になるような行動につなげていき、結果を出してきたところです。

 嫉妬心を客観的に分析してみたところ、それが生まれてくるのはどうしようもない。ただその情動が生じた時に、鬱々と自分の内部に溜め込んでしまうと、その感情は発露を失い、やがて思わぬ形で噴出してしまうか、その感情に身を焦がされて自滅してしまうかだと。

 嫉妬心が生じた時に、それは自分が欲しいものを相手が持っているからだということを自覚し、それならば自分自身が努力してそれを追い求める行動に移すことに全力を投入することです。

 よく嫉妬心を諦めるように促すようにアドバイスされますが、諦めるということは、それが自分自身にとって手に入らないことが明確である場合になせることであって、手に入りそうで入らないものに対して、強引に自分自身を納得するのは中々困難で、だからこそ苦しいのです。

 そのためには、欲しいものを求めるという気持ちを抽象的にランクを上げて、そのものというよりも、求めるという気持ちに焦点を当てて、それを発散させるような具体的な行動をとることが、合理的な嫉妬心の解消方法であると為末氏は考え、実行したのだろうと思います。なるほど。

 「走る(実行する)哲学者」だと言われる所以だと感じました。