· 

尊厳死=自然死

 老人ホーム専属医師中村仁一氏が作家であり医師である久坂部羊氏との対談の中で、「尊厳死(を希望するなら)は、(過剰な終末期医療を受けず)自然死を迎えること」という発言がありました。

 ホームで多くの高齢者の死を看取った体験から、そう感じたそうです。

 死はだれも避けることはできないもの。そして生物的にそれは肉体の衰弱の結果としてプログラミングされていて、自然にありのままに身を任せていれば、それほど苦痛を感じることなく、身体機能の衰えの兆候が順番に生じ、そして、最後は苦痛の少ない状態で死を迎える=自然死=大往生=尊厳死を迎えることができると、中村氏は言います。

 しかし現在の日本社会において、そのような自然死を迎える人がいかに少ないか。

 病院で過剰な終末期医療を受けながら、不自然で肉体的にも苦痛の多い状態で亡くなる結果になっていると。

 それは生命のあるものは必ず死ぬという歴然とした事実を見ようとせず、死というものに向き合うことをせず、どこまでも生に執着する生き方がもたらす結果であると中村氏は考えます。

 だから、50歳の生殖可能年齢を過ぎたら、後は「死を視野に入れて」生きるべきだと。それが「理想的な死に方を迎えられる『可能性』を高める」と。

 氏が主催する死を考える会では、「棺桶体験」をされているようです。自分自身が入る(予定)の棺桶をあらかじめ作っておき、その中に実際に入ってみる。

 自分自身の死を疑似体験するのに、リアル感の強いこの棺桶体験は、死が必ず訪れるリアルな出来事であることを心身共に深く了承させてくれるものになると。

 その疑似体験した死から、今、ここ、の生の意味を考え、生き方を選択し、来るべき死に向かって、残りの人生を「生ききる」。

 尊厳死は、死から目をそらさないで正面から見つめることによってしか手にすることができないのだと思いました。