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そうだったのか。

 人は自分が自分のことを一番よく知っていると同時に、自分のことを一番知らないのは自分だといつも感じています。

 前者の理由は、人に言えない自分だけの秘密を知っているということ。

 そして後者の理由は、他の人は直接見ることができるのに、鏡や映像を通じてしか、自分を客観的に見ることができない構造になっているからです。

 たぶん現代人が過去の人と決定的に違うのは、この「客観的に自分を見る」手段を手に入れたことだと思います。

 性瓶分析者ラカンの鏡像理論がいうように、子供が鏡の中に映っている像を自分像と認識することによって、自己意識が芽生えくるように、写真や映像で、「他者の目」で自分を捉えることができるようになった近代人は、特に映像技術のテクノロジーの進歩と普及により、誰もが四六時中、分を他人の目で見ることができるようになった現代人の自意識は、その手段がなかったころの人とはかなり異なると思います。

 だから、実は自分が他人にこうみられていると思い込んでいた自画像が崩れた時のショックは大きいのではないかと思います。

 写真(セルフィィなんて最たるもの)や、映像で繰り返し自分像を見て、他人の目に映る自分像を無意識に微調整し、他人がそう感じてほしい理想像に近づけるようにいつづけているから。

 けれども、その思い込みが間違っていたら?

 自分が想定した他人の目が実は想定したものと違っていたら?

 それを意識した途端、世界ががらがらと崩れていくような思いをいだくのは、

 そのショックの大きさに改めて気づきます。