是枝裕和監督作品「あるいても あるいても」を観て、昭和の家の雰囲気をなつかしく思い起こしました。
舞台は三浦半島の突端にある元町医者の家庭(父親原田芳雄、母樹木希林、次男阿部宏、再婚妻夏川結衣)の、溺死した長男の法事で集まる様子を描いたものです。
頑固で今話題の「昭和の男」そのものを体現している原田扮する父親像も、専業主婦として家事を切り盛りし、女性として母として鬱屈した気持ちを抱えながらユニークな存在である母親と、優秀だった兄と比べられて現在失業中で、子連れ女性と再婚した次男と父親との対立(これも昭和ですね!)。
そして何より、医院の佇まいが私たち昭和の子供がしばしば通ったなつかしい「病院」そのままの雰囲気を漂わせていて、アルコールのにおいがぷ~んとただよい、セピア色(当時からそのような色をしていたような)の空間を思い出しました。
年配の出演者すべてが亡くなられていることもあって、「昭和は遠きなりにけり」を実感した映画ですが、昭和を感じさせるものはすべてこの家の中に体現されていました。
縁側の下のぞうりや、タイルのかけた風呂場。
そして家族や親せきが一同に集ったときに、食卓一杯に展開される料理の数々。
当たり前のように結婚して家族を持つということがなくなった(私自身もそう)家族では、
このように昭和の家族の様子が展開されること自体が稀有なことなのだなあと。
いつの間にか、ほんとうに気づかぬうちに、昭和が亡くなってしまっていたのだなあと、
映画を見て思い起こされました。
年よりには傾斜がきつすぎる坂道の階段を足の不自由な父親や母親が上り下りする様子を見て、
彼らも若い時はなんでもなかったのだろうと思い起こされ、
坂道の上から眺める海(長男の命を奪った海でもある)の美しさとの対象で、これも印象的でした。
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