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コミュニケーションと「対話」の間

 医師、孫大輔著「対話する医療」の中で、「コミュニケーションは「伝言ゲーム」、対話はキャッチボール」という言葉と出会いました。

 孫氏は医療における「対話(ダイアローグ)」の可能性を追求し、医療現場におけるダイアローグの普及と啓蒙の教育に携わっています。

 コミュニケーションとは、発話した人が想定した意味をできるだけ正確に相手に伝えるやり取りであるのに対して、「対話」は、想定される意味を伝えるだけでなく、お互いのやり取りの中から意味が生まれてくるような、相互的かつ構成的な行為だと定義しています。

 これまでの医療は医師と患者との力の格差が、医療パターナリズムの風土を生んでいました。圧倒的な知識を持っている医者が「教え諭す」ように患者と対応し、患者は医師に対して自身の思いを伝えることはできない状況でした。

 そうなる理由は、医師側にも患者側にもあり、双方の状況がそれを固定的な関係にしてしまっている。対話的な医療は、その限界を突き破り、医師と患者との新たな医療の可能性を開くものとして孫氏は捉えています。

 これまでの医師と患者の関係の中で、決定的に欠けていたのは、「病を患う主体としての患者」でした。症状という現象によって、普段とは異なる身体状況に陥った患者が、どのようにそれを経験しているのか、それを語る言葉を医療を提供する側が聴いてこなかったことによる、医療者側と患者との間のギャップが発生する原因で、それが医療者と患者との対立関係もしくは、不信に発展するリスクをはらんでいると。

 対話的医療の本質とは、医師は患者の意見や考えをうまく引き受けるような意識をして、積極的に「聴く」こと。また患者も医師に対してオープンに話したり、質問したりすること。そしてそこからお互いにオープンなコミュニケーションが生まれると。

 現実の医療では医師が忙しくて中々そのような状況が成立するのは難しいと思われますが、物理的な忙しさだけでなく、医師の意識が「対話」に対して開かれているか。もしそうでなければ、医療教育として医師の意識を教育していく必要がある。そして医療現場の困難さを、地域の場に広げることによって、オープンな対話の場を提供し、その土壌を涵養していくことを試みているようです。

 対話する医療の可能性に気づかされました。