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人間の力を超えたものに出遭ったとき

 高橋源一郎氏の新ラジオ番組「飛ぶ教室(3月まで8年続いた「源ちゃんの現代国語」の続き番組)の第一回目で、カミュの「ペスト」が紹介されていました。

 今世界的に「ペスト」が読まれているようで、新型コロナが流行りだした時期から再版続出のようです。

 カミュは「異邦人」しか読んだことがなく、「ペスト」は読んだことがないので、高橋氏の紹介で内容を知りました。

 アルジェリアのオランという町にペストが流行するプロセスを、主人公である医師や牧師の言動を通じてリアリティある描写で描かれているそうですが、カミュ自身は、これが書かれた1947年、第二次世界大戦という人類未曾有の総力戦を体験(自身はフランスでレジスタンスをしていたようです)を、ペストという隠喩で描きたかったのではないかとの評価だったようですが、この度の世界的なコロナ感染の現実において、人々は、感染症の実態そのものに興味を持って読んでいるのではないでしょうか?

 高橋氏はカミュが描きたかったのは、戦争や感染症流行など「人間の力を超えたものに遭遇したとき、人々はどうするのか?」ということではないかと。

 「際限なく続く敗北」という戦争や感染症が引き起こす現象は、我々の心理にどのような影響を及ぼすのか?

 そして物語で描かれている人々の感染症に対する言動が、現在世界を襲っている現実の感染症に対する人々の対応との類似から、「我々は自分の中にペストを持っている」というのがカミュの訴えたかったものではないかとの高橋氏の感想でした。

 確かに新型コロナへの対応は、身体的・経済的・社会的、それぞれの置かれた境遇によって様々だと思いますが、その状況の中で、どのように対応するかは「内なるペスト」への対応如何のような気がします。

 私自身の中にもある「ペスト」なるものを見つめてみようと思います。