作朝のラジオ深夜便「明日への言葉」のゲストは脚本家山田太一氏、インタビュアーは櫻井洋子アナウンサーでした。
途中で聞いたので「この老人の声の主はだれだろうか?」と話し手がわかりませんでした。会話は途切れ途切れで、ぼそぼそと、言葉が明瞭でなく、記憶にある山田氏の話し方からは想像もできない変わり方でした。
現在85歳だそうです。
70年代~80年代、時代の変化が「家族」という現象に与える影響を鋭く読み取り、深い感動と問題提起をされた活躍時のままの姿(声)を想定していたのでショックでした。
しかし、当時の作品そのまま、たぶんお体が衰えて会話も困難なのでしょうが、櫻井さんのリードする対話に、子供のころ過ごした浅草の様子など誠実に応えている様が、山田氏の作品の中身を反映したお人柄が誠実に伝わってきました。
そして現在の老いのそのままを(もちろんご自分の様子は自覚されているでしょう)、声だけとはいえ晒すという勇気に、老いというものを、ありのまま、そのまま受け止めている山田氏の人生観が深くうかがわれました。
その中で、山田氏が老年の主人公が老いと格闘する姿を描いた老いをテーマにした作品について、書いた当時、山田氏が40歳代だったことに触れた櫻井氏の質問に対して、氏は「老いについて何もわかっていなかった。実際に自分自身が老いを体験するのとは全く違った様相である。」とおっしゃっていました。
山田氏ほど豊かな感受性で、鋭い観察力をもっている人でさえ、老いは想像するのと実体験するのとは、全く異なるということを教えられました。そして実際に老いている「最中」、当事者は老いそのものに対して戸惑い、拒否し、怒りなどの感情が先走って、それを言葉にして的確に表すことが、それこそ老いの衰えてくる思考力の影響もあって、老いそのものを伝えることは不可能であるのだろうと改めて感じました。
そして氏の言葉で一番印象に残っているのは
「死を待つ」ということばでした。
近いうちに確実に訪れる死を、静かに、そのまま、座して、待つ。そのような姿勢がうかがわれ、氏自身の老年の有り様を描いた脚本のドラマを見てみたいと改めて感じました。
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